本構想はアイディアの一つであり、事業としては未完成です。 今後のブラッシュアップに伴い、随時情報を更新していく予定です。 |
主目的
(1)ブロックチェーン技術を用いた目録の制作・NFT(非代替性トークン)やDRM(デジタル著作権管理)を使用した複製防止策の施行により、歴史資料等の社会開示を促進し、市民教育の発展・防災教育等への活用を目指す。
(2)御朱印や歴史資料のデジタルデータの販売経路を確保するほか、秘仏等の閲覧に市場価値を形成することにより、消費者心理を刺激し、寺宝公開イベントなどへの集客を促進する。
上記目的達成のため、本事業で数点のサンプルを社会提供することにより、その効果を測定するとともに事例形成し、今後の活用方法を検討する。
現状と課題
近年のインターネットの発達とともに誰でも発信しやすくなる一方、寺宝がYouTubeやWeb上に許可なくアップロードされるなどの状況が発生しています。一方で、スマートフォン利用者の増加に伴い、寺院への入り口を解放するための寺院のDX化も求められています。また、地域社会では古文書等の資料が、過去の災害等の状況を明らかにするなどの期待も高まっています。それに対し、地域寺院自身が社会に提示できている社会資源はさほど多くはありません。
DX化の現状を見るうえで、一つの参考として記念事業として行われた「寺院紹介アプリ」があります。スマートフォン上で個々の寺院の紹介が行われ、またデジタル御朱印の販売が一つの特色を持っています。しかし、参加寺院はごくわずかなようです。
このアプリの参加寺院を分析すると、有力観光寺院は参加せず、町の小・中規模の寺院のみが参加している傾向がわかります。しかし、「デジタル御朱印」という事業においては、小さな寺院単独では販促力が弱く、どうしても有力観光寺院の参加頼りになるのではないかと考えられます。一方で、有力観光寺院としては、スマートフォンのスクリーンショット機能などを用いてデジタル複製が容易なことから、参加しづらいのではないかとも推測できます(フリマアプリでの御朱印転売問題と重なります)。かような理由により、ネットでのコンテンツ配信には権利の保護が不可欠だと言えます。
また上記スマートフォンアプリは記念事業で作られたアプリであり、コンテンツの継続性の問題が挙げられます。すなわち、継続的な資金の提供が行われない単発的な事業において、収益と運営維持費のバランスが崩れた場合においてのサービスの継続性への懸念です。換言するならば、アプリ配信者側の利益・不利益だけならず、デジタル御朱印の購入者といった消費者側の不利益の問題を考慮しなければならないということです。
したがって、デジタルコンテンツの提供推進のためには、(1)低コストかつ安定した画像配信プラットフォームの構築と(2)権利の保護の二点が不可欠だと考えられます。
(上記、単発事業の問題は他にもあり、例えば寺院のDX化においては各々の寺院によるWordPress等の決まったコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)の利用が推奨され、容易に可能であろうスマートフォンアプリ上の寺院紹介とWEBページとの連携といったことは検討していないようであり、持続的な構造を持っていません。また専門的知識を有さない寺院運営者にもCMSの設置を推進するなど、セキュリティの問題といったDX化を阻む要素を多数残しています。)
プログラム概要
順序 | 具体的な内容 | 期待される効果・達成目標 |
---|---|---|
1.目録制作 | Graph等の既存アプリケーションを用いて、ブロックチェーン上に目録を作成する。 | 各寺院がWeb上に情報提供、一般ユーザが容易に検索できる基盤を形成する。 |
一般ユーザが購入できるデジタルコンテンツマーケットを形成する(OpenseaやRaribleといった既存マーケットプレイスの活用でも可、また体験型ではYouTubeなどのメンバーシップ機能などが活用できる)。 | ||
2.歴史文献・資料へのNFT・DRM付加 | 歴史資料(画像データ)の権利の保護を行う。 | 歴史資料の権利を保護することにより、デジタルコンテンツマーケットへの提供を容易にさせる。 |
有名寺院等、既に社会的価値のある御朱印等の販売において、コピー(複製)対策を施すことにより、価値の低下を防止する。また不正使用に基づく損害賠償等金額の算定基準価格を作る。 | ||
販売経路を構築する。 | 地域寺院の歴史資料が社会に還元されることにより、街の歴史の学習等の市民教育(生涯学習)や防災教育へと波及させる。 | |
3.寺宝等のデジタル画像データの提供 | 秘仏等の画像の複製を防止するとともに、デジタルコンテンツマーケットにて、研究機関や一部の消費者等への資料提供を行う。 | 秘仏等の閲覧への市場価値を形成する。 ※「売れる」「売れない」の問題ではなく、市場価格を設定することにより、ブランド価値を形成し、より近寄りづらくする。 |
4.寺宝公開イベントへの波及 | 市場価値の形成により、消費者心理を刺激し、秘仏開示への付加価値を形成する(無料のものには関心が少ないが、価値が高いものとなると関心が深まる)。 | 上記効果により近寄りづらくなる一方、年に1度程度開催される秘仏公開イベント等の集客を促進させ、仏教文化への関心を向上させる。 |
想定利用ユーザ
属性 | 主な利用用途 |
---|---|
研究者 | 地域の歴史資料などが利用可能になることにより、地域の歴史研究、防災教育などへの活用 |
生涯学習グループ | |
行政機関(防災) | |
行政機関(観光) | 町の魅力発信など、観光事業への活用 |
観光・都市開発 |
関連資料
磨有祐実・山田憲嗣・中山文・谷田純「ブロックチェーン技術に基づく人文情報活用システムの試作」(第22回情報科学技術フォーラム)
コラム「古文書のフリーライドについて」
21世紀に入り、IT技術が進むと、人文学の分野ではあっという間に広がりました。 私たちがWeb上で仏典を手軽に読めるのも、そのおかげといっても良いでしょう。 一方で、入手できる情報は限られており「(数多くの)仏典を無料で読めるようにするべきだ」という声も、たまに耳にするところです。 このような期待にどのように応えていくべきでしょうか。 古代中国では翻訳が終わると原典は処分されてきました。 その結果、現代においてサンスクリット原典が見つからないという書物は決して少なくありません。 このことは原典を保存しておく重要さを示しています。 もちろん、現代ではごく僅かな貴重な書物は社会からの保護を受けられるものもあるでしょう。 おおよそ1世紀前には、敦煌の莫高窟で沢山の資料が発掘されました(参考:wikipedia「敦煌文献」)。 その中には、売買契約書や日常的な文書といった無価値な資料も多く残されています。本来ならば処分されてきたような資料です。 しかし、それが多数発掘されたことで当時の社会が赤裸々となり、「敦煌学」という学問も生まれたほどです。 (例えば、気候を記した日記なども大量に集めれば、現代人は有効活用できるでしょう) 私たちはこれまでの歴史の中で、「原典を残す」ということが、いかに大事なことかを理解してきたはずです。 したがって、「無料にするべきだ」という意見はいささか無責任です。 勿論、個人的にWeb上で情報公開されている素晴らしい方々も多くいます。 しかし、いずれはサービスの終焉を迎えることは明らかです。 今後、「古文書」を、”誰の負担”で、”どのように保護していく”か、 応益負担の原則を参考とすれば「受益者は誰」なのか、学習したい人だけなのか…。 これらの問題とともに未来を一緒に考えていきませんか。 |